コラム:耳コピのコツ(第2回) 耳コピ指南の第2回。コード理論を使って楽に採譜をする方 法を解説しています。 前回は、採譜を進めるうちに、スケール以外の音が出てきた らどうしよう、と疑問にぶち当たったところで終わりました。 とりあえず今回の内容を読んでもらえれば、理論で説明のつく コードが増えたわけですから、「ええとこのベースはトニック から何度の音で…」とか、「この一連のベースの流れはどうも ツー・ファイブ・ワンだな」式のやり方で、とにかくベースを 度数に置き換えて分析すれば対応しやすくなると思います。 では、それでもわからないコードが出てきたらどうしましょ うか。こういう時は、理詰めでコードを探ることをやめてしま います。今日的なジャズ・フュージョンなどは機能的コード進 行を一切廃した、体がひん曲がりそうなおそろしいコード進行 を持つ、それこそメロディ1音1音からコードを発想している ような難曲がいくらでもあります。ここまで来ると、そもそも ドミナントモーションとか、キーがどうとか考えるだけムダで す。まあ、これは極端な例として、それ自体が「ヘンなサウン ド」として成り立っているような曲想ですから、最初から理論 とは別なもの、と考える方がいいです。 ここまで行かなくても、採譜をやってて、どうも説明のつか ない音が出てくることは日常茶飯事でしょう。淡々と流れてい た曲に、一時的にノンダイアトニックコードがいい感じで現れ、 ここが勘所なのにどうしても採れない、と悔しい思いをしたこ とはありませんか? こんな場合も、わざわざ聞き取らなくて もコードネームを特定する手立ては残されています。それでも、 ある程度は音を拾う作業は必要になってきますが、これはまあ しょうがありません。 具体的には、その部分のメロディの動きから、コードを力で 割り出します。メロディの中からコードを特定するための機能 音を拾っていくわけです。前回の「コード機能を決める音」コ ラムでも説明した通り、コードの機能音は3度または7度の音。 これがメロディに現れるかチェックします。 まずは、とにかくベースとメロディを採りましょう。ベース Fでメロがe4d8c8>b2などと動けば、最初のE音がFに対する M7thの音程にあたりますから、これをコードタイプに照らし合 わせればめでたくFM7というコードネームが導けます。この場 合、同じM7音程を持つコードとしてFmM7という可能性もありま すが、これは実際両者を鳴らしてみてどっちが正しいかは簡単 にわかるでしょう。メジャーとマイナーの響きは激しく違いま すから。 また、メロが動かない時はバッキングのギターなりシンセな り、それ以外で動いている音があれば拾っていき、判断材料と します。とにかく動く音に注意です。和音よりは単音の方が採 りやすいはずですから。 メロディもベースも、他のパートも動かない、とか、一瞬で コードが切り替わってしまう、という地獄のようなケースでは、 とにかくメジャー/マイナーコードのどっちかだろう、と見当 をつけます。これが特定できれば、あとは勘でいろいろ付加音 を加えていったり、5thを変化させたりして確認しましょう。 これで何とかなる場合も結構ありますが、これぐらいは皆さん やってるかもしれませんね。 要するに、ベースを聴いた上で、そのベースをルートとする コードタイプ(メジャー/マイナートライアド、7th、m7-5th、 ドミナントなど)を想定しておき、そのアンテナに引っかかっ てくるメロディ音を待ち受けるという考え方です。多くはこれ で対応できますが、この時、さらにメジャーでもマイナーでも ないsus4コードも想定しておけば幅広い対処が可能になってく るでしょう。 さて、この方法で大体のコードのアタリをつけた上で、3声 や4声のコードを使ってMML上でハモってみたとします。聴 き比べてみて同じようなら問題ありません。しかし、よくある パターンとして、感じはだいたい合っているけど何か音が足り ない気がする…。こういう時はテンションが使われている場合 が多いです。これは次回以降の本編で詳説する予定です(まあ、 残りの音は聞き取るという手もありますが)。 また、テンションを知っていても、なおコードがわからんと いう場合は分数コードが使われている可能性が大。分数コード といっても、これについて何も説明してない現段階では算数の ことかと思うかもしれませんが、C/Bb、A/G7などと分数で表記 されるコードのことです(オンコードと2階建てコード)。こ れはいずれ説明するので、今は読み飛ばして構いません。つま り、これまでのやり方は、ベースを手がかりとしてコードを知 るものでしたが、分数コードを使われてしまうとそれが通用せ ず、ベースだけではコードが特定できない状況に陥ります。た とえばオーケストラ風の曲や、ちょっと前のコナミのゲーム音 楽をコピる時、「ハーモニーは刻々変わっているのに、ベース が動かねえじゃん」などと悩んだ経験がおありかもしれません。 これは「ベースペダル」という分数コードの一種が使われてい るわけです。こんな時はベースとコードをいったん無関係なも のとして切り離して考える必要があります。技巧的な曲はホン トにややこしく、手を焼きます。いずれにしても、今までのよ うな楽はできず、地道な努力編の世界に入っていきます。 まだ理論として習っていない分野にも踏み入ってしまったの で後半は難しかったと思いますが、次回は言葉だけ出てきた 「テンションコード」と「分数コード」への対応をお話ししま す。 (EOF)